全集の内容見本

 最近に古本目録をみましたら、かっての個人全集の内容見本がけっこうな
値段ででているのでした。そのむかしに、全集というのはけっこうひんぱんに
でておりまして、その販売促進のためには、立派な内容見本が用意されていて
ちょっとした書店にいきましたら、これが無料で配布されておりましたし、
版元に請求しましたら、すぐにおくってくれたのでした。この内容見本を
蒐集しているひとはいるのでしょうが、そうしたコレクターに支持される
内容見本というのは、どの全集のものでありましょうか。
 内容見本について書かれた文章で有名なのは、谷沢永一さんの「紙つぶて」に
収録のものであります。小生は、浪速書林からでた「署名のない紙つぶて」と
いう本を手にして、この文章をはじめて眼にしました。いまでは、文春文庫でも
「自作自注最終版 紙つぶて」でも読むことができます。

「 全集や叢書や講座などを刊行する際、たいていの出版社は宣伝のために内容
見本と呼ばれる小冊子を無料で配布する。・・たかが小冊子とバカにするなかれ、
明治文化全集』や『日本儒林叢書』の場合は収載書目改題として、前者は40頁、
後者は92頁の詳細なもの、本は買えなくても内容見本で勉強になる。
 どの内容見本も製作者は工夫をこらしているし、あとになれば貴重な資料なのに
消耗品として捨てられやすい。この実情に発憤した山口市の詩人・中津原睦三は、
大判97頁の『出版内容見本書誌』を編んで自費出版した。昭和27年5月から
44年1月に至る主要な内容見本を年月日順に配列、その体裁を正確に記し、
内容のすべてを詳しく紹介し、組み方見本にはどの部分がでているかまで詳細に
記録している。」

 先日に届いた「本の雑誌」11月号は、巻頭の予定されていた特集が編集者が
ダウンして掲載延期となり、急遽「ツボメグ丸一日書店で遊ぼう対談」という
特集が組まれています。坪内さんと目黒さんの二人が三万円の予算でジュンク堂
池袋本店で本を買って、それをねたに話をするというものです。
ここに、内容見本への言及がありました。
 坪内祐三さんの発言です。
「 内容見本って、そればかり集めている人がいますからね。僕なんかぜんぜん。
そういえば、西村賢太って作家がいるでしょ。彼が十年くらい前に朝日書林という
小さな出版社から藤澤清造全集をだすといって内容見本を作ったんですよ。
これは内容見本史上に残る、ものすごく充実した内容見本で、30頁くらいかな、
それを西村賢太が一人で書いている。で、全四巻と西村賢太書き下ろしの藤澤清造伝の
別巻というのが予告されていて、図書新聞でまもなく刊行という広告がでたのに、
それ以来、ぜんぜんでる気配がないんですよ。・・・あの内容見本は、たぶん、
古書価がでるんじゃないかな。このまま藤澤清造全集がでなかったら幻の企画な
わけですからね。」

 この内容見本の話は、もちろんはじめて聞く話でありまして、西村賢太さんも
藤澤清造さんもはじめて聞く名前です。これって、どのような内容見本である
のでしょうか。