半減期を祝って 2

 津島佑子さんの小説「半減期を祝って」は、ちょっと希望がなくなる暗い近未来小
説となります。
 2011年3月の福島原発から飛び散ったセシウム137が半減期を迎える30年後を過ぎた
頃に思いがけないお祭りが、トウキョウでも自然発生的にはじめられるかもしれない
とあります。
「みなさま、おなじみのセシウム137は無事、半減期を迎えました。正確にはすでに
四年前、半減期を迎えていたのですが、今年は戦後百年という区切りの年です。
すべてにおいてまだ原始的だった百年前の戦争で、どれだけ多くのひとたちが理不尽
な苦しみのなかで死んでいったか、そのことを偲ぶための記念すべき年でもあるので
す。・・・
 私たちにとってすっかり親しくなったセシウム137が半減期を迎えたことをお祝い
するのに、今年ほどふさわしい年はない、との多くの方々のご意見がございました。
それで、今年、さまざまなお祝いの行事を執り行うことになりました。」
 セシウム137と30年つき合って、なんともなかったのであるから、もう大丈夫だか
らお祝いして、復興のために地域に戻ることを進めようということのようです。
あくまでも30年後の話であります。
「四、五年前に、独裁政権が熱心に後押しをして、『愛国少年(少女)団」と称する
組織、略して「ASD」ができ、それが熱狂的にもてはやされるようになった。子どもた
ちがむやみに入団したがるので、順番待ちに状態になっている。「ASD」をモデルにし
た漫画がこのブームを作り出したという話だった。キャラクターつきの商品も売り出
されているが、いつでも入荷待ちの状態で、それでますます人気があおられる。」
 前半がセシウム137であったとすれば、作品の後半は「ASD」話題となります。
「なんでも『ASD』にはきびしい人種規定があって、純粋なヤマト人種だけが入団を許
されているというのだ。アイヌ人もオキナワ人も、そして当然、チョウセン系の子ども
も入団を許されてはいないのだけれど、いちばん評価が低いのはトウホク人で、高貴な
ヤマト人種をかれらは穢し、ニホン社会にも害毒を及ぼしているという。」
 このあとトウホク人はなぜ危険であるかがとかれているのですが、もちろん作者であ
る津島さんは、自分はトウホク人であるという立場であります。
 30年後のヤマトから排除されたアイヌ人、オキナワ人、トウホク人の今回の衆議院
挙の結果はといえば、オキナワとアイヌ(この場合北海道に住む人間ということで)は
明らかにヤマトの選択とは違う傾向であるかな。もっとも30年後に危険とされるトウホ
ク人はイワテ以外は、それほどでもなく、なによりもトウホクアオモリでは津島さんの
甥にあたる人物が議席を確保でありました。
 30年後にはどうなっているのでありましょう。