中学生の頃のあこがれかな

 瀬戸内寂聴さんの「鬼の栖」を楽しく(?)読むことができました。出家前の

作品でありますので晴美さんの名前で発表したものですが、三角、四角関係という

複雑な男女のことが描かれていました。舞台は戦前の東京でありまして、その時代

には姦通罪というのがありましたが、作中に登場する女性たちは、いわゆる囲われ

ている人であったりで、婚姻関係の外にいますことから姦通罪に問われることは

なしですね。

 これを読みますと、菊富士ホテルに関する本を読んでみたくなりまして、思わず

近藤富枝さんの本を注文することにです。宇野浩二も大きく取り上げられているの

ですが、こちらの作品はおいおいにです。

 ということで、本日に新たに手にしていたのは図書館から借りているものです。

 当方が中学生のころに夢中になってきいていたのが、洋楽のヒットパレード

ありまして、あの時代にラジオのDJをしていたのが高崎一郎福田一郎で、ライ

ターとして活動していたのが朝妻一郎さんでありました。

 中学生の当方は、このような仕事があるのかと思ってあこがれたものであります

が、それから60年ほども経過して、その当時の業界の事情を知ることになりです。

 朝妻さんは、音楽業界の重鎮として有名になるのですが、その昔の一介のライ

ター時代を知るものとしては、どうしてこのような出世を遂げたのかと思ったもの

です。

 もちろん、それは洋楽市場というものの規模が拡大し、そのあとに和製ポップス

がメジャーとなったからですね。この本にも名前がでてきますが、若い頃に歌手を

していた飯田久彦さんがレコード会社の社長になったり、亀淵さんがラジオ放送

会社のトップになったのですから。

 山下達郎さんがいつも言ってますように、デビューしてからはどこかで見切りを

つけて業界の裏方に転じるものと思っていたでありまして、業界にはそういう背景

の方がたくさんいるのでありました。

 本日に読んでいて目についたところを引用です。

「日本語のタイトルといえば、高崎さんはもう一つ素晴らしいヒットを生み出して

いる。これは僕が高崎さんのところにきてかなり経ってからだが、ポリドール・

レコードの洋楽部員だった渡辺さんが、高崎さんに『この曲は絶対ヒットすると

思いますから、いい日本語のタイトルを考えてください』と、ガス・バッカス

いうドイツ人の歌う『Short On Love』というテンポのいい曲を聴かせた。」

 中学生の頃に流行した「恋はスバヤク」という曲の邦題は、ポリドールの渡辺

さんという担当が、高崎一郎さんに相談してできたものとのことです。なるほど

なですが、この渡辺さんは、「のちに作曲家に転身される筒美京平さんだ」とあり

二度驚くことにです。

 そういう朝妻さんも、最初のうちは「石川島播磨重工業造船部」に勤務して、

音楽業界は副業というか、アルバイトであったというのですから、そういう時代

でありました。

手にしたが吉日で

 気ままな読書生活ですから、予定もなにもあったものではないのですが、図書

館から借りているものだけは、返却日が決まっていますので、もし読むのであれ

ば、それを意識することになりです。そうはいっても、当方が借り出しの本は、

めったに予約が入ることもなしで、借り出しの延長をお願いすればいいことで。

 ということで、本日は昨日に購入した瀬戸内晴美時代の小説「鬼の栖」を開い

てみることにです。この小説は「菊富士ホテル」を舞台にした、いわゆるグラン

ドホテル形式のものとなりです。

 作者が、このホテルに関心を寄せて取材を始めるところからの書き出しとなる

のですが、最初に次のようなくだりがありです。

「私が最近になって特に『菊富士ホテル』に関心を持ちはじめたのは、伊藤野枝

についてある小説を書いている途中で、主人公野枝と、その三度目の夫大杉栄が、

一時、やはりこのホテルに身をひそませた事実があったから、その当時をしらべ

たいという目的のためだった。その時私には、すぐ江藤華枝が浮かんできた。

華枝が学生時代から菊富士ホテルを叔母の家だとよく話していたのを思いだした

からだった。」

 ここを読んだだけでも、パーッと話が広がっていくような予感がしますよね。

「菊富士ホテル」「大杉栄伊藤野枝」そして「江藤華枝」でありますよ。

大正末期から昭和初期に、「菊富士ホテル」には知名人が多く下宿することに

なるのですが、かなり高級な下宿屋でありまして、どうしてそこに「大杉栄」な

どが下宿できていたのかでありますね。

 ちょうど、この時期にNHKBSでは伊藤野枝を主人公とするドラマが放送中で

ありまして、伊藤野枝吉高由里子さんが、大杉栄を演じるのは永山瑛太さんで

あります。大杉栄なんて、ドラマの登場人物として大丈夫かと思いながら、野枝

さんは、出奔して大杉と暮らし始めるはずですが、「菊富士ホテル」の部屋は

再現されるのかなと思ったりです。

 瀬戸内さんの小説を読んでいましたら、大杉栄は部屋代をまったく納めないと

いうことでありまして、その払わない手口なども書かれているのですが、平成の

西村賢太さんも十代で一人暮らしを始めた頃は、家賃を払うことをしないという

ライフスタイルですが、その先駆者が大杉栄でありましたね。

 ということで、とても楽しく瀬戸内さんの「鬼の栖」を読んでおりまして、こ

の読書は明日まで続きそうであります。

このあとは、すこし「菊富士ホテル」に関係する本を読んでみようかなと思わせ

るものです。この関係で、そのものずばりは近藤富枝さんの「菊富士ホテル」で

ありまして、彼女こそ「江藤華枝」さんでありますね。

 

安いが高い、高いが安い。

 ここ何日かお天気がよろしくて、秋の行楽日和となりです。本日は郊外の放牧

場を会場に大規模イベントがあるのですが、コロナで何年かお休みになっていま

したが、ひさしぶりの開催で、きっと大勢の人が集まっているのでしょう。

 当方はひどい人混みは避けることにして、午前は庭仕事とトレーニング、午後

からは買い物となりました。

 このところ、家人のほうからブックオフへ行きたいという声があがりまして、

もちろん当方に異存はなしであります。基本は予算ワンコインということで、

選書を行うことにです。

 本日に購入したのは、定価の高いものがうんと安くて、それよりも安い定価の

ものが高い値付となっていました。それぞれの本のページ数や詰め込まれている

文字数からすると、こういうこともあるのかと思うことです。

 定価は安いが、ブックオフで高かったのは、次のものであります。

船出

船出

Amazon

 童話屋からでた辻征夫さんの文庫サイズの選詩集。辻征夫の詩集くらい読んで

おきなさいと言われたことがありで、これまで当方がなじんでいるのは「ゴーシュ

の肖像」くらいでありまして、あとは思潮社からのものを一冊と岩波文庫をもって

いるだけで、そろそろ読んでおかなくてはです。

 この本は、奥付けには1999年2月4日刊とありですが、この一年後2000年1月に

は亡くなったのでありますね。(亡くなって20年ほどで岩波文庫に入ることに

なるとは思ってもいなかった。)

 もう一冊は、角川「女性作家シリーズ」のものです。

 女性の作品のみを集めた全24巻のアンソロジーですが、主に昭和期以降に活躍

した作家などを収録ですが、その一巻目は野上弥生子円地文子幸田文の三人が

一緒です。単独で一巻となって人はいなくて、どなたかと同居しています。

本日に購入したのは、宇野千代瀬戸内寂聴のお二人で一巻となってました。

 手にしてみますと宇野さんは「おはん」と「刺す」と「生きてる私(抄)」が

瀬戸内さんは「鬼の栖」と「蘭を焼く」の二作が収録です。

 瀬戸内さんは多作でありまして、作品数は多く、文庫化されているものも多い

はずですが、なかなかこれが見当たらずなのですね。今回の二作は、持っていな

いことと、文庫で買うよりも安い値付けであったことから、ありがたく買わせて

もらうことにです。

 この二作ともに出家前の作品でありまして、その時代の小説をまずは読んでお

こうと思った次第です。

 

重陽の節句か

 本日は重陽節句でありまして、夕方くらいになって、このことを思い出しま

した。この日には、丸谷才一さんの「今は何時ですか?」を話題にするのであり

ましたが、あれほどであった丸谷才一さんも、最近は読まれなくなっているので

はないでしょうかね。

 2012年10月に亡くなったので、ことしで没後10年でありますか。今こそ忖度な

しに丸谷作品が論じられるようになってほしいものであります。それにしても、

あれほどの威光でありました丸谷さんの仕事をまとめたものが、文藝春秋社から

の全集の全12巻というのは、ほんとさびしいことです。

 このほかに批評をまとめたものがあるではないかとか、書評はちくま文庫

すこしまとまっているではないかとかいわれるのですが、もうすこし全体を見渡せ

るような編集方針で、全集を作る事はできなかったのかな。亡くなった時代は、

出版業界に逆風でありましたから、丸谷さんはそれをまともに受けてしまった

格好ですね。

 その昔は日本文学全集のようなものがありまして、主要な作家は、それの一巻

に代表的な作品が網羅されて、良質のアンソロジーとなっていました。最近でいう

池澤夏樹さんが編集した河出の全集がありますが、当方の頭にはその昔に筑摩書

房が出していた全集のイメージがありです。

 池澤さんの全集では、丸谷さんの中編「樹影譚」と「横しぐれ」をとっています

が、やはり長編とか批評、それに書評と雑文までも含んだ一冊本ですよね。

 その昔に、野呂邦暢さんの作品がなかなか入手が難しかったときに、文藝春秋

が一冊本の「野呂邦暢作品集」というのを出してくれたことがありますが、その後

野呂邦暢さんについては、小説集成とエッセイ集成がでて、非常に恵まれたこと

になりました。 

 丸谷さんも一冊本の作品集からでも新たなファンを獲得するようにしてはいかが

でありましょう。

 その時に長編小説は何をとりましょうか、とるとすれば「笹まくら」ですが、

思い切って丸谷は中編までということもありかもなとか、評論、批評なら何をとる

かなとか、あれこれ考えるのも楽しいことであります。

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いただきました。

 つぶやいてみるものですね。先日にこの場で、なんとか読んでみたいものと話

題にしました「VIKING」860号に掲載されている中尾務さんの「小沢信男

リトルマガジン」でありますが、関係部分のコピーをいただくことができました。

たいへんありがとうございます。

 ほんとおかげさまでありまして、小沢信男さんに関する論考などは、ほとんど

眼にすることができていないのですが、富士正晴、「VIKING」、大阪文学学校

川崎彰彦というようなつながりのなかで小沢さんを話題にしていただけで、古く

からのファンである当方は、うれしく思うことです。

 小沢信男さんは、一番最初は詩人丸山薫さんの主宰する同人誌「青い花」で詩

作を始めるのですが、その後「江古田文学」から「新日本文学」と活動の場を移し

ていき、それとあわせて富士正晴さんに見込まれて「VIKING」の東京ブランチの

リーダー役を務めることになります。今回の中尾さんの論考は、小沢さんの「青い

花」から「VIKING」時代に焦点をあて、どうして小沢さんは「VIKING」を脱退す

ることになったのかを、富士正晴さん宛の書簡から解明していくことになりです。

 富士正晴さんのところに残された小沢さんと、小沢さんに関わる人からの手紙

を読みといていくというのは、まさに富士正晴流の手法でありまして、富士正晴

記念館に勤務していた中尾さんならではのことです。

 特に同人誌「青い花」で一緒であった方については、ほとんど知らないことで

ありまして、このところを拝見して、当方がこれまでの理解は違っていたのだなと

思ったりです。

 先日に小沢さんの詩「T市T町午後三時」の全文を引用して、これに登場の女性は

小沢さんの元夫人と記しているのですが、中尾さんの見解は「青い花」の仲間の

女性であるということで、なるほどなであります。

 そういえば、小沢さんは若い頃は男前で、いかにもモテそうな感じであったので

すよね。

 中尾さんの文章は、

  1 川崎彰彦との<間一髪のすれちがい>

  2 富士正晴との交流

 という二部構成となります。

 「青い花」は一部に関わり、「VIKING」はもちろん二部にかかわるのですが、

小沢さんを「VIKING」に結びつけた田井立雄さんについての、次のくだりが眼鱗

でありました。

「このストイックな文学姿勢は、『江古田文学』時代、『同じような小説を二度と

書くな』と断言、それを実行した先輩・田井立雄の影響によるもの。」とありまし

て、これは大いに参考になったことです。

 1974年1月の朝日新聞読書欄に「若きマチュの悩み」が取り上げられているので

すが、評者は次のように書き出しています。

小沢信男は寡作の小説家である。しかし生み出される数少ない作品を一度読むと、

忘れがたい味をおぼえさせられてしまう。」

この評者は、鶴見俊輔さんと聞いております。この時代にすでに小沢信男は寡作の

作家で、それは先輩・田井立雄さんの影響でありましたか。 

vzf12576.hatenablog.com

明日は返しに行こう

 図書館から借りている本の価格を合計すると、いくらくらいになるのだろう。

超弩級高山宏「雷神の撥」と「周作人自伝」の2冊をあわせただけでも2万

五千円(税抜)でありますからね。

 このように高額な本は、図書館から借りるからなかをのぞくことができるので

ありまして、とっても自腹で買うことはできません。たぶん、当方は定価1万円を

超える本は、何冊も購入していないはずです。山口昌男さんの「ラビリントス」く

らいではないかな。

 それはそれとして、ややしばらく借りている高山さんの本は、借りていても

さっぱり読むことができず、ちょっと読んでいるのは刺し身のつまのような二段組

のところばかりで、やはり手に余ることであります。

 とにかくページに風を入れるかのように、パラパラとページをめくりながら、

すこしだけ読んで、明日は返しに行こうと思いましたです。

 ほんと二段組で収録されている文章に挟み込まれたゴシップのところはとっても

面白いのですよ。だから、そこのところばっかりをつまみ読みするのであります。

 たとえば、高山さんが師と仰ぐ、種村季弘を追悼した文章の、書き出しの次の

ようなくだり。

「『なんだタネのコピーってのは、おまえか』

 東京都立大学人文学部英米文学専攻に職が決まって、新人歓迎の飲み会の深更、

お隣の独文学専攻の教授、川村二郎氏がぼくにかけた最初の言葉である。

『タネ』と言って、それが種村季弘のことであるのが百パーセントわかり合えて

るような関係が当然という大前提あっての言葉で、でなければそれまで相手に

一度の面識もない、誇りと挑発とに満ちた洗礼の語であった。まるで後のやり

とりを将棋指しのように読みながら挑発の語を慎重にくりだす川村氏を、成長な

きぼくはついに苦手にし通し、その後も実は酒席でかなり同座しながら、ほとん

ど何も喋っていない。」

 英文専攻ではありますが、種村教授がいるというので、虎穴に入った高山さん

ですが、種村さんはその時に国学院へと転じてして、都立大学の人文を仕切って

いた篠田一士からは、高山は由良君美の子分とみられて、疎んじられるという

おまけのつきの都立大時代の思い出です。

 川村二郎さんの雰囲気は、近寄りがたいものであったのでありましょうね。

こういう時代がありました。

この文章では、高山さんは都立大学の改組のことを痛烈に批判するのですが、

その後名前だけはもとに戻ったようですが、人文学部の黄金時代は戻らないので

ありましょう。

あれから4年か

 2018年9月6日に胆振東部地震というのがありまして、それから4年です。

隣町は地震のために山崩れが発生し44名の方がお亡くなりにです。当方のところ

では山崩れのような被害はなかったのですが、北海道全域において停電が発生して、

それがために、ややしばらくの時間、ひどく不自由な生活となりました。

 あの日のことを、この場でどのようにメモしていたかなと思ったのですが、さす

がに地震発生の当日は更新をすることができずで、その日は空白となっていました。

ほとんど、意味もなく連続更新をしている当方としては珍しく空白でありますので、

その地震の影響の大きさが思い知れることです。

 あれ以来、当地は大きな地震はないのでありますが、最近はあちこちで震度5

度の地震はありまして、このようにしてエネルギーを小出しにすることで、大きな

地震にならないのであれば、震度5くらいなら受け入れるという感じです。

 それにしても、ほとんど前例がないくらいの規模での停電であったのですが、

なんとなく日本社会のシステムは大丈夫かなと思わせる出来事ではありました。

最近も、某国では原子力発電所への攻撃が話題になっているというのに、やはり

原子力発電が電力のベースで、これの増設が必要なんてのは、信じられないこと

です。その次には発電所の防御のためには、それ相応の軍備が必要というふうに

なっていくのだよね、きっと。